リラックスするだけではなく、お客様の生活を豊かに

 

究極のおもてなし 界遠州 総支配人 岡田航起様

 

 

浜名湖湖畔に位置する星野リゾートの温泉旅館「界 遠州」。
館内に足を踏み入れると、茶香炉からお茶の香りが漂い鼻腔をくすぐります。常時12種類以上の静岡茶が用意されたティーセラーでは好きなだけお茶の飲み比べができ、大浴場では「お茶玉風呂」で体ごとお茶に浸かることができます。随所に浜松の伝統工芸「遠州綿紬」のファブリックが置かれ、地域の文化を斬新に表現しています。

総支配人の岡田航起様に界遠州のおもてなしについてお話を伺いました。

各部門のスタッフ様からご相談をいただく機会が何度かあり、スタッフ様それぞれが課題解決に向けて積極的にサービスの提案をされていらっしゃるご様子を拝見しました。どのような体制で運営されているのでしょうか。

「界 遠州」はお茶と遠州綿紬などの伝統工芸が魅力だと思います。
その魅力をスタッフがお客様の滞在中にどう伝えていくかに常にこだわってきました。
このような滞在演出は、スタッフの所作や言葉だけではなく空間を含めて考えています。

界 遠州のスタッフは、チェックインチェックアウト・フロント業務・料理の盛り込みや客室の清掃などあらゆる業務に携わっています。あらゆる業務に携わっているからこそ、それぞれのスタッフが各部門の気づきを蓄積することができます。

スタッフの提案は、温泉旅館「界」のブランドコンセプトから外れないかぎり積極的に採用します。お客様アンケートはもちろん、客室や大浴場のアメニティの使用状況なども気にかけ、お客様が本当に求めるサービスを追求しています。

お客様の滞在中、一番大切にされていることは何ですか。

お客様が心身共にリラックスされ、元気になって帰っていただくのはもちろんですが、お客様にとっての学びや気づきがとても大事だと思います。界 遠州での滞在がお客様の豊かな暮らしに繋がればと考えております。

「界」では地域の特徴的な魅力を楽しんでいただけるよう、伝統工芸、芸能、食などを満喫できるおもてなし「ご当地楽」をご用意しています。界 遠州では「美茶楽」と題した美味しい煎茶の楽しみ方を伝えるご当地楽を行なっています。煎茶の本格的な味わいを感じられるよう、四季の移ろいとともに、プログラムの内容が変化します。お客様が帰宅後、界 遠州で習ったようにお茶を淹れたら美味しく淹れられた――そんな学びや楽しさを提供することがとても大切だなと思っています。

お茶を学ぶことのできるご当地楽「美茶楽体験」



また、星野リゾートグループ全体で考えていることですが――。
コロナ前はより多くのお客様に来ていただきたいと考えておりました。
コロナ後、私達が目指すべきは本当に多くのお客様を求めて売上を上げることなのか。
今一度考え直しています。

私達事業者とお客様の利益を追求するだけではなく、地域社会や地域の環境も配慮に入れた旅の形態が今後は重要になってくると改めて考えているところです。私達はこれをレスポンシブル・ツーリズムと呼んでいます。

もともと星野リゾートは軽井沢の1つの旅館「星野温泉旅館」から始まっています。
星野温泉旅館では熊とどう共存していくか、地域をどう活性化していくか等、地域の課題を解決しながら発展してきました。コロナ禍を経て、事業と顧客と地域社会が双方に利益が感じられるような取り組みを続けていくことが継続的に私達の発展にもつながると考えています。

 
星野リゾート「界遠州」総支配人 岡田航起様

 

地域にどのように利益をもたらしていけるでしょうか。

観光におけるCO2排出量の7割は、移動に関するものだという調査結果があります。そこで、私達は1泊よりも連泊をご提案し、往復の交通量を減らすことで観光の環境負荷を減らしていきたいと考えています。また、滞在中に新茶の時期に地域の茶農家さんと一緒に茶の手もみ体験をしていただけるプランを用意するなどお客様が地域社会との関わりの持てる機会をより増やしていきたいと取り組んでいます。

界 遠州にはツツジとチャノキが交互に植えられた中庭がありますが、月に一度スタッフと地域の茶農家さんが相互に行き来して茶の栽培を指導していただくなど、地域との連携を強めています。

NACHARALさんのような理念の近い事業者さんとも連携しつつ、地域の茶農家さんの支援をしていけないかと日々考えているところです。

 

 

取材後記

眼下に広がる浜名湖、館内に漂うお茶の香り、静岡茶をはじめ海の幸・山の幸をふんだんに盛り込んだ会席料理、遠州綿紬の温かみのある手触り、スタッフの温かい笑顔――。五感を刺激される素晴らしい滞在経験ができる界 遠州。プライベートで滞在した折には、スタッフの方の連携のとれたお声掛けや心配りいただき、温かいおもてなしをいただきました。それを支えるスタッフの皆様の日々の研鑽や地域社会への思いについて伺うことができました。

私はプロダクトを通じて「いかにリラックスしていただけるか」を考えてきましたが、岡田支配人はリラックスの先を考えておられ、「お客様の生活を豊かにしていただきたい」との言葉がとても心にのこりました。

また、岡田支配人からレスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)についてお伺いし、今後はわたくしどもの商品をご使用いただくお客様にもお茶を取り巻く地域社会や環境について知っていただく機会を設けることも大切にして参りたいと感じました。