お客様の心の琴線に触れるサービスを

東京ベイコート倶楽部、エクシブ有馬離宮など数々のラグジュアリーホテルの立ち上げに関わってこられた元東京ベイコート倶楽部ホテル&スパリゾート総支配人の上田健司様。新卒でヒルトン東京に入社後、シェラトンホテルを経てリゾートトラストに入社され、エクシブ有馬離宮開業時に総支配人、東京ベイコート倶楽部総支配人、リゾートトラストハワイ副社長を歴任され、数多くのホテルスタッフを育成されてこられました。上田様の考える究極のおもてなしについてお話を伺いました。

 

 ホテルマンになられたきっかけについて教えてください。


伯父がホテル日航銀座の総支配人をしており、子どもの頃からよく連れて行ってもらっていました。ホテルの方が皆優しくて非日常的な空間も好きで、高校生の頃には就職先をホテルと決めていました。

大学卒業後、伯父の勧めで新宿移転の新規開業のヒルトン東京に入社し、ベルマンからキャリアをスタートさせました。ヒルトン大阪の新規開業を経て、シェラトンに入社し29歳で神戸ベイシェラトンの支配人として新規開業を務め、リゾートトラストに入社後東京ベイコート倶楽部の開業を経て、エクシブ有馬離宮開業時の総支配人になりました。エクシブ有馬離宮は総支配人を務めた2年間、24カ月連続満室の忙しいホテルでした。

その後東京ベイコート倶楽部に移り総支配人として7年間務めた後、総支配人にアドバイスを送る担当となり各地のホテルを廻る生活をしていました。ハワイ・オアフ島のカハラ・ホテルでリゾートトラストハワイ副社長を務め、ホテルマン人生を終え帰国しました。

究極のおもてなしとはどのようなものだと考えられますか。


お客様の心の琴線に触れることのできるサービスではないでしょうか。

(総支配人を務めた)エクシブやベイコートは会員制ホテルです。
通常なら滞在したホテルが気に入らなければ次からは別のホテルを利用すれば済みますが、会員制ホテルのお客様はサービスが気に入らなくても簡単に別のホテルに替えられません。自ずとお客様のお求めになるホスピタリティも高くなります。

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チェックインで失敗してしまったお客様に対して挽回のチャンスを探りレストランでお詫びのシャンパンを用意したり、事前にいただいた情報とご来店時の会話からできるだけ情報を収集してサプライズの一皿を用意したり……。
どれだけ高いホスピタリティを提供できるか、どうしたらお客様の琴線に触れるサービスができるかに力をそそぎました。

高いホスピタリティを提供できるかどうかは、結局のところスタッフの感性です。
お客様が求めているものを察知しそれに応えることのできる各個人の感性に頼る部分が大きいです。

感性を磨くには、良いホテルに行って素敵なサービスを体験することです。
宿泊したりレストランを利用したりしなくても、良いホテルのロビーを利用するだけでも充分です。良いホテルや良いレストランで素敵な経験をすると、価値観や感性が出来上がってくるんです。私自身も(東京ベイコート勤務時代には)都内に評判のレストランの噂を聞けば、必ず伺うようにしていました。


多くのホテルスタッフの育成をされてこられました。
指導の際、どんなことを大切にされてこられたのでしょうか。

 

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ホテルの仕事にはすべて意味があります。
仕事の意味や背景を考えることが大切です。
ベルマンはお客様の荷物を持ちます。
では、なぜベルマンはお客様の荷物を持つのでしょう。

「お客様が重い荷物から解放されて少しでもリラックスしていただきたくて(ベルマンである自分が)お客様の荷物を持つ」と理解して行動に移せば、お客様にも思いやりの気持ちが伝わるでしょう。
ベルマンの中には「仕事だから」という人もいるでしょう。
しかし、仕事の背景や意味をちゃんと理解できていないと失敗します。
「なぜこういう行動をしているのか?」と意味を問い、常に考えることが必要です。

お客様と接するときの立ち位置も非常に大切です。
お客様にホテル内の施設をご案内するとき、自分がどの位置に立てばお客様が歩きやすいかを常に考えていました。

これらはわたしが(ヒルトン東京入社したばかりの)ベルマンだったころに試行錯誤したことですが、今でも身に染み付いています。


高級ホテルの新規開業が続く中で、リピーターを獲得していくにはどうしたらよいのでしょうか。

ホテルの料理が美味しいのは当たり前です。
ホテルの空間がある程度質感のあるものであることも当たり前でしょう。
しかし、空間がよくてもスタッフがよくなかったらお客様は来なくなりますよね。
わたしがよく使う例えですが、
建物が時間の経過とともに使い込まれてきているが自分のことをわかってくれるレストランと
ピカピカだけど全く気持ちがこもっていないレストラン、どっちに行きたい?
と問われたら、前者を選択するはずです。
つまり、最後の決め手は、スタッフだと確信しています。